横断面の反りを考慮した薄肉変断面梁の解析法
および船体縦強度への適用に関する研究


 主論文の要旨
 最近の船舶では、高張力鋼の使用による船殻板厚の減少や社会的要請に応じた
新しい船種の出現および海洋汚染防止のための構造形式の変更等によって、
縦曲げ荷重を受ける際に横断面に反りが大きく現れ、船体縦強度に
大きな影響を及ぼす可能性が生じている。
しかし、従来から船体縦強度解析に用いられている梁理論では、
この横断面の反りの現象が考慮されていない。
また、有限要素法などの高度の数値解析法を用いれば反りの影響を含んだ
全応力を求めることができるが、個々の船体設計に常に有限要素法などによる
大規模な数値解析法を用いることは実際的でない。特に初期計画や概念設計の
段階においては、多くの船体構造の候補案から短期間に最良の案を選択したり、
構造パラメ−タを変化させて最適な設計を模索することが多いので、
簡便で理論的な反りの影響を考慮した縦強度計算法の出現が望まれている。
 このため、船体のような複雑な断面形状の薄肉梁の応力分布を十分に把握するためには、
薄肉梁理論に船体横断面全体の反りを統一的に考慮した、
新しい船体の縦強度解析法を確立する必要がある。

 本論文では、まず、船体の横断面全体の反りを考慮した薄肉変断面梁の
応力解析法を提案し、その解の精度と解析法の妥当性を確認している。
さらに、この解析法を従来型の撒積貨物船、新しい構造形式の二重船殻油槽船
および水中翼付双胴型高速船の縦強度解析に適用し、横断面の反りにもとづく
応力成分の分布の特徴を明らかにし、これらの研究成果より、
反りの影響を考慮した船体縦強度設計上の要点を述べたもので、全7章よりなる。

 第1章では、本研究の目的、従来の研究および本研究の概要について述べた。

 第2章では、薄肉変断面梁の応力解析法を示した。

 この方法では、横断面の剪断流に基づいて定義される「反り関数」と
船の長さ方向の「剪断力の変化率」に比例する関数の積で反りによる直応力を計算し、
縦強度部材の微小部分に働く全応力成分の釣り合いにより反りによる剪断流を求めた。
すなわち、倉西らによって研究された、横断面不変の仮定にもとづく箱型等断面梁の
反りによる直歪や直応力などを求める近似計算法を基に、船体に適用するために、
横断面に関しては多重連結領域を有する複雑な断面で、かつ長さ方向については
両端が先細りとなっている薄肉変断面梁へ適用できるように発展させた手法を開発した。
 さらに、船体梁の微小部分に働く全応力成分の船の長さ方向の力の釣り合いを
考えることにより、反りによる剪断流を計算できる応力解析法を提案している。

 第3章では、まず交番載荷状態にある撒積貨物船の船倉部分について、
本解析法による計算結果と3次元板構造にモデル化した有限要素法による
数値計算の結果とを比較し、本解析法の妥当性を明らかにしている。
 次に、軽合金製箱型等断面梁の縦曲げ強度試験を行い、その結果との比較により、
この解析法が実用上十分な解の精度を持つことを示している。
さらに、薄肉箱型変断面梁について、本解析法による計算結果と有限要素法による
数値計算結果とを比較し、本解析法は薄肉変断面梁へ適用しても実用上妥当であり、
船体梁の解析に有用であることを確認している。

 第4章では、静水中および正面向い波中において、交番載荷および
均等載荷状態にある撒積貨物船に対して本解析法を適用した結果、
剪断力が大きくかつその変化率が大きい交番載荷状態においては、
反りによる直応力のために単純梁理論に基づいた縦曲げによる直応力の値が
±20%程度増減し、反りによる直応力はガンネル部およびビルジ部などで
大きくなることを示している。さらに、均等載荷状態においては反りによる応力成分は
小さいことなどを明らかにしている。

 第5章では、静水中および正面向い波中における、ヘビ−バラスト状態にある
二重船殻油槽船に本解析法を用いて解析した結果、剪断力が大きくかつ
その変化率が大きい船体中央部付近において、反りによる直応力の大きさは
縦曲げによる直応力の20%から30%に達し、特にガンネル部およびビルジ部において
大きくなることを示している。
 また、縦曲げモ−メントによって生ずる曲げ応力の符号と、同じ物体点に働く反り
による直応力の符号を規定する要因を調べて、両者の応力成分が同符号ならば重畳さ
れ、異符号ならば相殺される関係を明らかにしている。さらに、反りによる剪断流は
荷重の変化率が大きくかつ反り関数の積分値が大きくなる所で大きくなることを提示
している。最後に、船体平行部の縦強度上の応力成分を検討する場合には、船全体を
等断面梁と見なしても実用上差し支えないことを述べている。

 第6章では、船首部が先細り構造の水中翼付双胴型船舶を対象にとり、本解析法を適
用して、静水中航走時の縦強度について検討している。これにより、水中翼を有する
双胴型構造の船舶においては、水中翼取付部付近で剪断力およびその変化率が大きく
なるため、他の所に比べて反りの影響が大きいことを示している。特に、中心線縦桁
下の船底湾曲部では、横断面の中立軸近傍であるため縦曲げによる直応力がほとんど
発生しないにもかかわらず、無視できない大きさの反りによる直応力が発生すること
を明らかにしている。

 第7章では、以上の研究成果を総括して結論とした。

Dept. of Naval Architecture, Fac. of Eng.
Nagasaki Institute of Applied Science / Nagasaki Japan

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